地域医療や地域包括ケアシステムに必要なのは、多職種連携や「全人的医療」だと言われています。
「全人的医療」とはなんでしょうか?
「全人的医療」=「リハビリテーション医療」+「総合診療」と考えます。
地域医療は、「リハビリテーション医療」+「総合診療」でうまくいくと考えられます。
この2つを組み合わせれば、ある症状に困っていて、そのために生活動作が困難になっている場合に、詳しく話も聞かず「病院ではわからないのでケアマネに聞いて」「○○科のことはここでは診ないよ」とはなりません。
「総合診療専門医」と「リハビリテーション科専門医」の理念(記事の最後に掲載)をまとめると、以下のように理解できるのではないでしょうか。
「総合診療」= 診療科を越えて横断的に患者さんの健康問題に取り組む
「リハビリテーション医療」= 地域生活にかかわる 疾患管理、障害管理、環境調整など、より良い生活へのマネジメントをする
「総合診療」は、何科の病気でも初期診療や長期の疾患管理をします。病状を診た(問診含む)うえで、専門診療科の診療が必要であれば、その科の受診を勧めます。
「リハビリテーション医療」は、活動(生活動作など)を中心としてICF構成要素全体を診て、マネジメントします。必要であれば、地域のケアマネジャー、看護師、理学療法士などのリハビリテーション専門職、管理栄養士、薬剤師などの方々と方針・目標を共有して協働します。
障害の階層で考えると、一般的に医療では、疾患から始まるアセスメントをするので、
「この病気なら、この障害が出るだろう」と考えます。
それに対して、活動・参加からも、その原因疾患を考えるリハビリテーション医療は、
「なんでスーパーへの買い物がおぼつかなくなったのだろう?」
という視点からもアセスメントします。
「なんで買い物に行くのが大変になったのだろう?」の時に詳しい症状を聞き取って考慮に入れる疾患は多種に及びますが、リハビリテーション科はそのアセスメントが得意です。
- 息切れ→心不全?呼吸不全?の悪化?
- ひざの痛み、腰の痛み→変形性膝関節症?腰椎圧迫骨折?
- 歩いている途中で足が辛くなってくる→腰部脊柱管狭窄症?末梢動脈疾患?
- 前傾前屈の姿勢、すくみ、小刻み歩行→パーキンソン症候群?
- 疲れやすい→内分泌疾患?心不全?
- 片麻痺がある方の歩容悪化→痙縮の変化?二次障害?
などの症状や状態から診断を進めていき、原因に対処したうえで適切なリハビリテーションにつなげます。
「リハビリテーション医療」と「総合診療」を合わせて実践することで、
「地域での生活をより良くするかかわり」が可能になり、
地域包括ケアシステムの中で多職種と協働できる「全人的医療」がうまく機能すると考えます。
わかっているようでわからないリハビリテーション医療の考え方はこちらのリンクのカテゴリーで解説しています。
森山リハビリテーションクリニック 院長 和田真一
【参考】総合診療専門研修プログラム、リハビリテーション科専門研修プログラム
総合診療専門研修プログラムの領域専門医の使命には、以下の記載があります。
日常遭遇する疾病と傷害等に対して、適切な初期対応、必要に応じた継続的な診療を全人的に提供する。
地域のニーズを踏まえた疾病の予防、介護、看とりなど、保健・医療・介護・福祉活動に取り組む。
地域で生活する人々の命と健康に関わる幅広い問題について適切に対応する使命を担う。
リハビリテーション科専門研修プログラムの領域専門制度の理念には、以下の記載があります。
リハビリテーション科専門医は、
病気,外傷や加齢などによって生じる障害の予防、診断、治療を行う
機能の回復並びに活動性の向上や社会参加
に向けてのリハビリテーション医療を担う
リハビリテーション医療は、
医師、医療スタッフ、関連職種がチームを組み、
患者さんを中心としてその生活機能を高める
生活環境・地域社会に働きかけて、全人的な生活の質を高める
ために遂行される。
2019年3月5日公開
2022年12月12日更新