生活期リハビリテーションは、身体機能的に急激な回復が望みにくい時期に長期間のかかわりになることが多く、リハビリテーションアプローチがうまくいっていても、病気の再発や新たな発症、生活環境の変化、本人や家族の認知機能のゆっくりとした低下など、生活動作能力低下に入り込む要素が多いです。
介入やアウトカムの設定がしにくく、まだまだエビデンスに乏しい状況で、経験則での方法論が多いのが現状です。

現場も手探りの中で議論しており、研究のレベルとしてはcase reportcase seriesとどまっているものがほとんどです。

一方、急性期・回復期リハビリテーションについては、近年良好なエビデンスが蓄積されてきています。そんななかで、生活期リハビリテーションの効果についても、しっかりとした評価、結果を出していきたいと考えている専門職やグループは増えてきています。

これからの時代は経験則で話しをしても信用されない時代になってくると考えます。
私は、臨床研究や実践についての知識や考え方、実践方法などを身につけて今後の医師人生を進めて行かなければならないと考え、
また、医学だけでは解明できない「障害のある人が長期的に良くなっていくための主体性」について研究を進めたい動機もあり、
2014年から2年間帝京大学大学院公衆衛生研究科で幅広く公衆衛生学を学び、2016年公衆衛生学修士(MPH)を取得いたしました。
2021.01 帝京SPH教室風景

臨床研究の実践について学んだことを生かし、実際に、森山リハビリテーションクリニックでおこなった臨床研究を2017年に論文化しました。
色変わりチューイングガムによる咀嚼能力評価を「この食物であれば口の中でペースト状にできますよ」という指標にすることができました。
論文タイトルを日本語にすると「高齢者はどのタイプの食物をかみこなせるのか?色変わりチューイングガムによる咀嚼能力評価」です。
What type of food can older adults masticate?evaluation of mastication performance using color-changeable chewing gum.
Dysphagia32(5):636–643, 2017

論文のPDFは無料でダウンロードできます。

リハビリテーション科よりもさらに広い視点で、疫学、生物統計学、保健政策・医療管理学、社会行動科学、環境産業保健学などの公衆衛生学の基本領域を幅広く学び、その中でも、健康の社会的決定要因(social determinants of health)、人の意思決定に関する行動科学、ミクロ経済学、社会疫学なども
実臨床に生きていると思います。

大学院入学後に有床診療所の院長となり、公衆衛生学で学んだことが、管理者としての組織のマネジメントや、地域包括ケアシステムの中で有床診療所が有用に機能できるような地域連携にも役に立っています。

また、2020年からの新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいても公衆衛生学の基礎知識を感染対策の理解や分析・実践に役立てています。
管理者になる準備としても、公衆衛生学はおすすめです。


森山リハビリテーションクリニック 院長 和田真一
2019年1月25日公開
2021年1月21日更新