脳卒中を発症し、回復期リハビリテーション病院を退院後、当院の訪問リハビリテーションを利用開始した70代の女性(Brunnstrom stageⅢ~Ⅳの運動麻痺が残存)がいます。

2019.06 小又さん文庫の森立位
発症前はとても活動的な方であり、家事全般を行っていた他に、
地域の卓球クラブへの参加、友人とのカラオケやマージャン、自宅では編み物などをしていました。

しかし、自宅に退院してきた当初は「外を歩くのが怖い」との訴えが聞かれており、外出する機会が少ない状態だったため、訪問リハビリテーションではセルフエクササイズの指導や歩行練習を主に行いましたが、それでも外出の機会はなかなか増えていきませんでした。


改めて「どんなことがしてみたいか」について話し合ったところ、
「卓球をしに行きたいけど、まだ卓球はできないと思う」
「自分の好きな時に一人で買い物に行きたいけど、荷物を持って長い距離を歩くのは不安」

との訴えが聞かれました。


そこで、活動・参加の場を広げるために、訪問リハビリテーションで卓球の練習を始めました。

ダイニングテーブルを使って卓球の練習を開始してから数か月後、「これならクラブに行って少しできるかな」と自信が生まれ、週に1度、地域の体育館まで通うようになりました。


また、買い物にはご主人の付き添いでT字杖を使用して行っていました。

安定した屋外歩行のため、自宅周囲の環境も確認したうえで、あえて四点杖を提案したところ、
「この方がしっかりしていて安心感がある。これなら一人でも行けそう」
と不安が軽減し、徐々にスーパーまで一人で買い物に行けるようになりました。


活動の場を広げていくためには、単に歩行練習をするだけではなく、
できるだけ具体的に生活の中で「どんなことがしてみたいか」を共に考えながら、
「どうすれば不安が軽減して、できるのか」を評価し、実践していくことの重要性をあらためて感じた経験でした。

二次障害が起きづらく、疲れにくい歩容を獲得されました。歩行に対する恐怖心は軽減し、自主トレーニングも習得されました。
本人なりの活動範囲や活動・参加を広げていける能力と精神状態であると判断し、退院後
2 年で訪問リハビリテーション修了としています。


森山リハビリテーションクリニック 理学療法士 吉野 順也

2019年6月21日公開
2021年7月12日更新

※患者さんの写真掲載は本人の了承を得ています