障害のある人が長期的にその人らしい生活を構築していくための「主体性」
前回の「主体性回復プロセス 第0, 1段階」に続き「第2~4段階」です。
地域包括ケアシステムのなかで、障害のある人の「主体性の段階」を理解して、特徴を捉え、共有できれば、周囲の人の適切な支援にもつながり、非常に有用ではないかと考えています。
主体性回復プロセスの5段階は
第0段階「できない事を認識できていない」
第1段階「行動を起こしづらい状態」
第2段階「行動を起こす準備段階」
第3段階「行動を起こせる」
第4段階「行動(生活全体)をマネジメントできる」
このモデルは、脳損傷(脳卒中、脳外傷)による中途障害者を想定しています。
「主体性」は、「認知」が下支えし、
1「意欲」
2「自分次第という考え」
3「自信」
の3要素から成るというモデルにしています。
【第2段階「行動を起こす準備段階」】
今の状況で「できそうな活動・参加」をやってみようという気持ちになり(意欲の高まり)、物事の結果は自分の行動次第で決まる(自分次第)という考えになってきて、行動を起こそうという気持ちになってくる段階です。
指示待ちの姿勢から脱却してきます。
主体性3要素のうちの「意欲」と「自分次第という考え」の2つが揃いますが、「自信」は揺れ動きます。発症前の自分との比較ではなく、発症後の改善したことに目を向けることができ、自分の障害と環境でできそうな生活イメージがついてき始めます。
病前の価値観とは別の価値観を認め始め、「自分はこれでいいのかもしれない」と考えるようになってくる時期であり、「自分らしさ」を模索して、行動を広げて行ける段階です。
【第3段階「行動を起こせる」】
「意欲」があり、「自分次第という考え」に加え、「自信」がついて主体性の3要素が揃います。
自分の能力・障害や自分の置かれている環境を客観的に理解でき、自分らしく生きるために、人に依頼すべきことと自分で行なうべきことがしっかり区別できるようになってきます。
ひとりでできる自信がつき、初めてのことでも自分で行動できるようになります。
空間的な行動範囲は、連れて行ってもらった場所など「経験のある場所」の範囲内だった第2段階から、経験のない場所でも行き始めるのが第3段階です。
具体的に実現可能な目標を自ら掲げ、自分らしく生きるための行動を起こすようになり、興味・関心の視野が広がってくる段階です。価値観としては徐々に「自分は自分」であると考え始めます。
「自分らしさ」の模索は続きます。
第3段階までくれば、主体的な本人に任せて自分らしい生活を送ってもらうことになります。
私たちは、この段階を目指すことを考えています。
当初の論文では第4段階を「本人に任せる段階」としていましたが、考えを改めています。
【第4段階「行動(生活全体)をマネジメントできる」】
主体性3要素が揃い、行動をしていくうちに、自分にできることとできない事の折合がつき、周囲を見渡して自身を考えられるようになり、価値観の変化から、「いまの自分が自分らしい」「新しい自分が自分だ」と思えるようになり、自尊感情が高まります。
この段階では、新たな価値体系で、生活全体を自ら構築(マネジメント)しています。
病前にも増して活動範囲を広げている方もいます。
同じ障害の方のためになることをしたいと考え、ピアサポートの活動を進んでされる方もいます。
段階評価を提唱すると、
「一方向に進んでいかなければならない」「段階が戻ってはいけない」
「主体的な第3段階にならなきゃいけない」
と、到達する先が強調され過ぎて「こうあるべき」という考えに陥ってしまう可能性があります。
しかし、それは本望ではありません。
私たちは、段階は一方向ではなく、いろいろな経験をしながら行きつ戻りつの経過をたどることもある
と考えています。
強調したいのは、適切な対応を周囲の人が統一しておこなうための段階評価であるということです。
本人の回復の芽を摘まないような対応を統一できる可能性があると考えています。
「脳損傷による中途障害者の長期的な主体性回復のプロセス」の詳細は
”Japanese Journal of Comprehensive Rehabilitation Science(JJCRS)” にアップロードされています。
日本語論文URL:http://square.umin.ac.jp/jjcrs/2019_29-36j.pdf
英語論文URL:http://square.umin.ac.jp/jjcrs/2019_29-36e.pdf
現在は、「適切なアプローチにつながる」という視点で主体性の段階分けができるように、評価方法を検討しています。
森山リハビリテーションクリニック院長 和田真一
2020年1月31日公開
2021年9月30日更新